2019.10.10(木)の月の入り
これは先月末の事なのですが、夜、いつも通り会社の自分のトラック(昨年の末から副業で運送会社に勤めています)を運行前点検していると、運転席側のドアとバックミラーの間に蜘蛛が巣を作っている事に気が付きました。
私は巣を壊して乗車すると、バックミラーの端で呆然としているその蜘蛛に心の中で語り掛けました。
「ごめんな。お前がせっかく作った家を壊した事は謝るよ。ただ、分かってくれ。そこに巣を張られると俺も困るんだ。だから、今後もここには巣を作らないで欲しい。」と。
私はその後、横須賀の会社を出発し翌日の日中、東京の品川区付近で信号待ちをしていた際、その蜘蛛がまだバックミラーの端に留まっている事に気が付きました。
よく湾岸線(首都高)で振り落とされなかったな。
私は蜘蛛が自分のトラックからまだ離れていなかった事に驚きながらも、このまま走り続けると危険だと思い、彼を近くの道端で降ろす事を考えました。
しかし・・
でも彼は一体、何故ここから離れようとしなかったのだろう?
まさか、足をミラーの溝か何かにでも挟まれて身動きが取れなくなっているのか?
しかし蜘蛛が特に怪我をしている様子もなく自由に動ける状況にある事は、ミラーの右上を起点としながらも時々付近を動き回るその様子からも知る事が出来ました。
「自分の家は横須賀だ。それをこんなよその土地で降ろされたりたら、一体どうやって自分の縄張りへ帰れば良いのだ!?」
「なるほど」私は自分の中で勝手に蜘蛛の言い分を想像すると、その蜘蛛に申し訳ない事をしてしまったせめてもの償いは、彼を無事、元の場所へ帰してやる事なのだと結論付けました。
その日私が横須賀の会社の駐車場へ帰還出来たのは、夕暮れをとうに過ぎた真っ暗な夜のことでした。
薄暗い駐車場での車庫入れを終えエンジンを切る直前、まだ確かにバックミラーの端にいる蜘蛛を見て私はホッとしました。
「元気でな」
私は、翌日になってもまだ彼がそこから離れていなかったらどうしたものかと思いながらも、縁あって丸一日共に旅をしたその蜘蛛に友情を感じ、心からの敬意を込めて別れのあいさつをしました。