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生き霊との会話



 

 本日は私が過去に体験した「不思議な出来事」について、お話しさせていただきたいと思います。

 

 これは私の幼少の頃(4、5歳位)の記憶に残っている出来事です。

 

 時期は昭和50年代の初頭で当時私の家族は、両親と子供(兄・姉・私)の5人で、地方の古い市営住宅地で暮らしていました。

 

 私の家はその住宅街の中でもかなり古い部類に入る二階建ての小さな住宅であり、就寝時は両親が1階で、私たち子供3人は2階の部屋に布団を広げて寝ていました。

 

 当時私は夜中に目が覚めて心細くなった時など、よく「泣きマネ」をして母を呼び、寝付けるまで添い寝してもらう(親不孝な)悪知恵を身に着けていました。

 

 しかしその悪知恵も所詮、大人である母にはそうそう何度も通用するはずがなく、2度3度と繰り返すうちに、いくら泣いてみせても母は来てくれなくなりました。

 

 それは私が「真夜中の孤独」は自分だけで乗り切らなければならないという事を受け入れて、まだ間もなかった夜の事だったと思います。

 

 

 その夜も、自分以外の家族全員が深い眠りの世界の住人となった頃、案の定、私一人だけが目を覚ましてしまいました。

 

 そして選りにも選って、その夜は特に目が冴えて、いくら目を閉じてじっとしてみても全く寝付けませんでした。

 

 心細さに耐えられなくなった私は当方に暮れて、一人シクシクと泣き始めました。

 

 しばらく泣いていると隣で眠っていた兄が起き上がって言いました。

 

 「うるさいなぁ・・」

 

 兄を起こしてしまって申し訳なくは思ったものの、私は孤独から解放された事にホッとして、眠れなくて心細かった事や怖かった事を兄に話し始めました。

 

 しばらく兄と会話して、パニック状態に近かった気持ちがようやく落ち着いてきたと思えた時、私は起き上がって自分と会話していたはずの兄が、最初から何事も無かったように横になって、深い寝息を立てて眠っている事に気づきました。

 

 私は目の前で起きた事を不思議に思いながらも、突発的に兄が横になったのだと思い込み、叱られるのを覚悟で兄の身体を揺すって起こしました。

 

 「何だよ?うるさいなぁ」

 

 兄は再び起き上がり、また先ほどまでと同じように、布団の上に座った状態で私と会話を始めました。

 

 「さっきのは気のせいだろう・・」

 

 私は無理やりそう信じることにして会話を続けました。

 

 しかし、しばらく話した後にふと気づくと、また兄は何事も無かったように眠っているのです。

 

 完全にパニックに陥った私は取り乱して自分自身の感覚を疑いました。

 

 「これは夢だ!! 僕も眠ってて夢を見てるんだ!!」

 

 しかし、そう考えている時点においても全くウトウトする事もできずにいる自分自身の現状から、それが夢であるはずがない事だけは認めざるを得ませんでした。

 

 もはや兄を起こす事が怖くなった私は、その後兄に話しかける事はせず、一人恐怖に震えながら時間の経過に身を任せました。

 

 その後どうやって夜明けまでの時を過ごしたのか、記憶には残っていません。

 

 

 あれから約40年の時が経過した現在、微かな記憶を辿り、あの夜と同じような出来事は、その後においても数回に渡って自分自身の身に起きていた事を思い出せています。

 

 今になって改めて思う事ですが、あれはやはり夢ではなく、私は確かに「目を覚ました兄」と会話していました。

 

 ただし・・

 

 それは普段の兄ではなく「兄の生き霊」だったのだと私は思っています。